1. 在日中国人および中国本土在住者が日本で会社設立する方法
中国人が日本で会社を設立する場合、発起人(出資者)や取締役となる本人が日本国内に住民票を持っているかどうかによって、設立手順や準備すべき書類、資本金の払込方法が大きく異なります。
日本在住者であれば自身の個人名義口座や日本の印鑑登録証明書を利用して手続きを進められますが、中国本土在住者の場合は日本国内の銀行口座や印鑑登録証明書を持たないため、日本側の協力者(共同代表や発起人など)を立てるか、短期滞在や4ヶ月の経営・管理ビザを活用したスキームを選択する必要があります。
| 比較項目 | 日本在住の中国人 | 中国本土在住の中国人 |
|---|---|---|
| 必要となる身分証明書類 | 日本の住民票、印鑑登録証明書 | 中国現地の公証書(公証処発行の身分・印鑑・サイン証明書)、パスポート |
| 資本金の払込先 | 発起人本人の日本の個人銀行口座 | 日本在住の協力者(共同発起人など)の個人口座、または4ヶ月ビザ取得後に開設した口座 |
| 日本国内の協力者 | 原則不要(単独で手続き可能) | 実務上、共同代表や設立協力者がいるとスムーズ |
| 会社設立後のビザ手続き | 在留資格変更許可申請(永住者・定住者等は不要) | 在留資格認定証明書交付申請(COE取得後に現地で査証発給) |
1.1 日本在住の中国人が会社設立する場合の流れ
就労ビザ(技術・人文知識・国際業務など)や留学ビザ、家族滞在ビザなどで日本に中長期滞在している中国人は、日本国内の市区町村に住民登録があり、個人名義の銀行口座を保有しているため、比較的スムーズに会社設立を進められます。
日本在住者が会社を設立する際のおおまかな流れは以下の通りです。
- 商号・本店所在地・事業目的・資本金額などの基本事項を決定する
- 会社の実印(代表者印)を作成し、定款を作成・公証役場で認証を受ける(合同会社の場合は認証不要)
- 発起人本人の日本の個人銀行口座へ資本金を振り込み、通帳コピー等で払込証明書を作成する
- 管轄の法務局へ設立登記を申請し、登記完了後に履歴事項全部証明書や印鑑カードを取得する
- 税務署・年金事務所等への届出および法人口座の開設手続きを行う
- 出入国在留管理庁へ「経営・管理」への在留資格変更許可申請を行う(永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者の身分系ビザを保有している場合はビザ変更不要)
留学生や就労ビザ保有者が起業する場合、会社設立の登記自体は問題なく完了できますが、設立後に経営者として日本で活動を続けるためには、在留資格を「経営・管理」へ変更する許可を得なければなりません。
変更が不許可になると日本での経営活動ができなくなるため、会社設立前の段階から事業規模やオフィス契約などの要件を意識して進める必要があります。
1.2 中国本土に住む中国人が日本進出で会社設立する場合の流れ
中国本土に居住したまま日本法人の設立を目指す場合、日本国内に住民票や個人名義の銀行口座がない点が最大の手続き上のハードルとなります。
日本の会社法上、発起人や代表取締役全員が海外居住者であっても会社設立は可能ですが、実務上は出資金を払い込むための日本国内の銀行口座をどのように確保するかが焦点となります。
中国本土在住者が日本進出を行う主なアプローチは以下の3通りです。
- 日本国内の協力者(共同代表・発起人)を立てる方法:日本在住のビジネスパートナーや知人に共同発起人または共同代表になってもらい、その協力者の個人口座を出資金の払込先として利用して登記を完了させます。
設立完了後に中国本土の代表者がビザを取得して来日します。実務上最も広く採用されている方法です。 - 在留期間「4ヶ月」の経営・管理ビザを利用する方法:日本国内に協力者がいない場合、出入国在留管理庁の経営・管理ビザ案内にある「4ヶ月」の在留資格を取得して来日し、住民登録と個人口座開設を行った上で資本金の払込みと会社設立登記を行う方法です。
ただし、賃貸契約や口座開設の期間的制約が厳しく、難易度が高いとされています。 - 中国本社の「日本支店(営業所)」を設置する方法:中国にある親会社の日本拠点として営業所を設置する形態です。
資本金の払込手続きが不要なため設立手続きは簡素ですが、中国本土の企業登記情報に関する公証・認証手続きが必要になります。
一般的な協力者スキームによる会社設立から来日までの流れは以下の通りです。
- 事業計画の策定、日本国内の協力者の選定、賃貸オフィス物件の確保
- 中国本土の公証処にて、自身の「公証書(身分証明書・サイン証明書)」を取得・認証
- 定款の作成および公証役場での認証
- 日本国内の協力者名義の銀行口座へ中国本土から出資金を送金・払込み
- 管轄法務局へ設立登記を申請し、法人登記を完了
- 出入国在留管理庁へ「在留資格認定証明書(COE)」の交付を申請
- COE取得後、中国現地の日本国大使館・領事館または代理申請機関で「経営・管理」ビザの発給を受け、日本へ入国
中国本土からの送金規制(中国国家外国為替管理局の年間送金上限規制など)や、公証書の発行手続きには時間を要する場合が多いため、スケジュールに十分な余裕を持った計画が求められます。
2. 中国人の会社設立に必要な要件とビザの基礎知識

日本国内で中国人が会社を設立して自ら事業を経営する場合、原則として在留資格「経営・管理」(経営管理ビザ)の取得、または経営活動が可能な在留資格への変更が必要です。
ただし、すでに日本に滞在している中国人の在留資格の種類によって、ビザ変更が必要なケースと不要なケースに分かれます。
「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」といった身分に基づく在留資格を保有している場合は、活動制限がないため経営管理ビザを取得しなくても会社を設立して代表取締役に就任できます。
一方、「技術・人文知識・国際業務」などの就労ビザや「留学」「家族滞在」のビザで滞在している中国人は、会社を設立して経営に従事する前に、出入国在留管理局へ在留資格変更の申請を行い許可を得る必要があります。
2.1 経営管理ビザの必須要件一覧
出入国在留管理庁の在留資格「経営・管理」の審査基準を満たすためには、主に「事業規模」「事業所」「事業の実現性・継続性」の3つの要素を立証しなければなりません。
それぞれの要件の概要は下表のとおりです。
| 審査項目 | 主な基準 | 立証のための主な書類・実態 |
|---|---|---|
| 事業規模 | 資本金500万円以上の出資、または2名以上の常勤職員の雇用 | 払込証明書、預金通帳のコピー、出資資金の形成過程説明書、送金証明書 |
| 事業所 | 日本国内に事業を営むための独立した実態のあるオフィスの確保 | 賃貸借契約書(事業用名義)、オフィスの外観・内観写真、設備配置図 |
| 実現性・継続性 | 事業の実現可能性が高く、安定した売上・利益が見込めること | 詳細な事業計画書(月別収支計画・損益分岐点)、取引基本契約書、仕入れ先の証明 |
2.1.1 500万円以上の資本金要件
出入国在留管理庁の基準省令により、事業規模の要件として500万円以上の資本金を出資すること、または2名以上の常勤職員(日本人や永住者など)を雇用することが求められます。
実務上は、固定人件費を抑えるために500万円以上の出資金を用意して会社を設立する手法が一般的です。
審査では資本金の金額だけでなく「その資金をどのように形成・調達したか」という出所と経路の証明が厳しく求められます。
中国本土から日本へ資金を送金する場合は、中国政府の外貨規制(年間5万米ドル相当額の送金枠など)を遵守した合法的な送金ルートであることを、送金元の銀行明細書や中国の親族からの借用書・贈与契約書などの書面で立証しなければなりません。
2.1.2 事業所オフィスの賃貸契約要件
会社を設立して事業を運営するための物理的な拠点として、日本国内に独立した執務スペースを確保する必要があります。
短期賃貸のマンスリーマンションや、他社と明確な間仕切りがないフリーアドレス形式のコワーキングスペースは、経営管理ビザの審査において事業所として認められません。
賃貸借契約の要件として、契約書の使用目的が「事業用」または「店舗・事務所用」となっており、契約名義が設立した法人名義であることが不可欠です。
個人名義で契約した住居を自宅兼事務所とする場合は、住居部分と明確に区切られた専用の執務室が存在し、賃貸人(オーナー)から「法人事務所としての使用許諾」を正式に書面で得ている必要があります。
2.1.3 事業の継続性と実現可能性の要件
会社を設立しても、事業が短期間で破綻する見通しであればビザは許可されません。そのため、設立する会社のビジネスモデルが論理的であり、将来にわたって継続的な収益を生み出せることを「事業計画書」で明確に示す必要があります。
具体的には、売上予測や原価、人件費、固定費を算出した月別の損益計画書を作成し、取引先との売買契約書や業務委託契約書、中国側サプライヤーとの覚書などの根拠資料を添付して実現可能性を立証することが審査通過の鍵となります。
許認可が必要な業種(古物商、飲食業、旅行業など)を営む場合は、事前に管轄官庁の許認可要件を満たす見込みがあることも合わせて提示します。
2.2 他の在留資格から起業する場合の変更手続き
すでに日本国内で「技術・人文知識・国際業務」や「留学」などのビザを保有している中国人が会社を設立する場合、会社設立の手続きを終えた段階で出入国在留管理庁の在留資格変更許可申請を行い、経営管理ビザへの変更を完了させてから本格的な事業活動を開始します。
変更手続きを行う際の主要な注意点は以下のとおりです。
第一に、就労ビザ(技術・人文知識・国際業務など)を保有している会社員の場合、勤務先を退職して会社設立の登記を完了させた後、速やかに在留資格変更許可申請を行います。
変更許可が下りる前に前職の資格のまま新会社で経営活動(営業や役員報酬の受領など)を行うと、資格外活動とみなされるリスクがあるため注意が必要です。
第二に、留学生が大学や専門学校を卒業・中退して起業する場合、在学中の資格外活動(週28時間以内のアルバイト制限)の遵守状況や出席率・納税状況が厳格に審査されます。
留学生時代のアルバイトで法定時間を超過した履歴や税金の未納・滞納があると、変更申請が不許可となる原因になります。
また、学校を中退して起業する場合は、資金調達の透明性や学業を中断してまで事業を始める合理的な理由書を作成し、提出する必要があります。
3. 中国人の会社設立手続きの全手順と必要書類

日本で中国人が会社を設立する場合、手続きの基本的な流れは日本人の起業と共通していますが、発起人や役員の居住地(日本在住か中国本土在住か)によって準備する身分証明書類や認証手続きが大きく異なります。
設立登記の手続きを円滑に進めるため、事前の決定事項から法務局への登記完了までの各ステップを正確に把握しておく必要があります。
3.1 商号や事業目的などの基本事項決定
会社設立の第一歩として、定款に記載する会社の骨組みとなる基本事項を決定します。
具体的には以下の項目を取り決めます。
- 商号(会社名):漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベット、数字が使用可能です。中国語の簡体字や繁体字はそのまま使用できない場合があるため、日本の常用漢字またはアルファベット表記に合わせる必要があります。同一住所で同一の商号は登記できません。
- 事業目的:会社が行う事業内容を明確に記載します。貿易業、飲食業、インバウンド旅行業、不動産業など、将来的に許認可が必要となる事業を予定している場合は、許認可要件に適合する文言をあらかじめ盛り込む必要があります。
- 本店所在地:会社の本拠地となる住所を定めます。
- 資本金の額・出資比率:出資者ごとの出資額と株式の保有比率を決めます。
- 役員構成:代表取締役や取締役の人数、任期(原則2年、非公開会社は最長10年まで伸長可能)を決定します。
- 事業年度(決算期):会社の会計期間を定めます。日本の税務申告スケジュールや繁忙期を考慮して設定します。
3.2 定款作成と公証役場での認証
基本事項が決定したら、会社の根本規則となる「定款(ていかん)」を作成します。
株式会社を設立する場合は、作成した定款について公証役場で公証人による定款認証を受けることが法律で義務付けられています(合同会社の場合は定款認証が不要です)。
定款認証手続きの流れと詳細は日本公証人連合会で公開されており、紙の定款を作成する場合は収入印紙代4万円がかかりますが、PDFデータによる電子定款を作成して認証を受けることで印紙代を不要にできます。
公証役場での認証時には、発起人の身分証明書類(印鑑証明書または公証書)の提出が必要です。
3.3 資本金の払込と出資金証明
定款認証の完了後(または合同会社の定款作成後)、定款に定めた資本金を指定の銀行口座に払い込みます。
まだ会社名義の法人口座は存在しないため、発起人個人の銀行口座へ振り込みを行います。
登記申請時には、出資金が確実に払い込まれたことを証明する書類として以下の書類を合綴した「払込証明書」を作成します。
- 会社代表印を押印した「払込取扱機関・払込受領金額を記載した証明書表紙」
- 出資者名、振込金額、振込日が印字された銀行通帳の該当ページ(表紙、裏表紙、入出金明細ページ)のコピー、またはインターネットバンキングの取引明細画面の印刷
振込の際は、預け入れではなく発起人の氏名が明記された振込履歴を残すことが必須となります。
3.4 法務局での設立登記完了までの流れ
出資金の払込みが完了したら、本店所在地を管轄する法務局へ設立登記の申請を行います。
申請手続きの概要や様式は法務省の商業・法人登記案内で確認できます。
法務局に登記申請書を提出した日(オンライン申請の場合は受付日)が会社の「会社設立日」となります。
登記申請に必要な書類一式は以下の通りです。
- 設立登記申請書および登録免許税納付用台紙(登録免許税は株式会社で最低15万円、合同会社で最低6万円)
- 認証済みの定款(株式会社の場合)または定款(合同会社の場合)
- 発起人の決定書・取締役の就任承諾書・代表取締役の就任承諾書
- 払込証明書(出資金の払込を証する書面)
- 発起人および役員の印鑑証明書(または中国の公証書)
- 会社の実印届出書(法務局に登録する代表印)
登記申請後、法務局での審査期間として通常1週間から2週間程度かかります。
審査が完了すると登記が完了し、「履歴事項全部証明書(登記簿謄本)」および「印鑑証明書」の取得が可能になります。
3.5 中国の公証書や日本の印鑑証明書などの準備
会社設立の手続きで必要となる証明書類は、出資者(発起人)や就任する役員の居住地によって大きく異なります。
日本国内に住民票がある場合は市区町村発行の証明書を使用できますが、中国本土に居住している場合は中国現地の公証処で発行された公証書類が必要です。
| 対象者の居住状況 | 必要となる主な証明書類 | 発行機関・特記事項 |
|---|---|---|
| 日本在住の中国人 | 印鑑登録証明書(発行から3か月以内)住民票の写し(マイナンバー記載なし)在留カード(身元確認用) | 日本の居住地を管轄する市区町村役場で取得します。印鑑登録が未登録の場合は、事前に実印の登録手続きが必要です。 |
| 中国本土在住の中国人(非居住者) | 公証書(声明書公証または印章・署名公証)公証書の日本語訳文 | 中国現地の公証処(公证书発行機関)にて氏名・生年月日・住所・サインまたは公印の同一性を証明する公証書を作成します。日本語訳文には翻訳者の住所・氏名・押印または署名が必要です。 |
中国本土で公証書を取得する際は、日本の法務局が求める記載要件(本人の身元情報およびサイン・印章の認証)を満たしている必要があります。
記載漏れや不備があると法務局で受理されず、再取得に日数を要する場合があるため、事前に司法書士などの専門家に文面を確認したうえで取得を進めることが重要です。
4. 中国人の会社設立で直面しやすい問題と解決策

4.1 日本国内に銀行口座がない場合の出資金払込方法
中国本土在住の中国人が日本で会社を設立する際、最初の障壁となるのが資本金の払込先となる銀行口座の確保です。
日本の会社設立登記では、発起人が引き受けた出資額の全額を払込取扱機関(金融機関)の口座に払い込み、その通帳コピーや取引明細を添付する必要があります。
しかし、日本の非居住者である外国人は、日本の銀行で個人口座を開設することが原則としてできません。
発起人全員が日本国内に口座を持っていない場合は、日本国内に銀行口座を持つ協力者を「設立時代表取締役」または「設立時取締役」に選任し、その個人の口座へ出資金を払い込む手法を採用します。
法務省の通達(平成29年3月17日民商第41号)により、発起人が日本に口座を有しない場合、発起人から払込金受領権限を委任された設立時代表取締役または設立時取締役の個人口座への払込証明書を用いて登記申請を行うことが認められています。
この方法をとる際は、中国からの海外送金記録(送金依頼書や送金計算書など)を保管し、発起人から受任者への「払込金受領に関する委任状」を作成して登記申請書に添付します。
なお、設立登記完了後は、速やかに新設法人の法人口座へ資本金を移動させる必要があります。
4.2 法人口座開設の審査基準と事前準備
会社設立登記の完了後、多くの中国人経営者が直面するのが法人口座開設の厳格な審査です。
近年、マネーロンダリング防止(AML)およびテロ資金供与対策(CFT)の国際的な規制強化に伴い、日本の金融機関は外国人代表者による新設法人の口座開設審査を非常に厳しく行っています。
実体のないペーパーカンパニーや不正利用を警戒されるため、事前準備が不十分な状態では審査落ちが連続する事態に陥ります。
金融機関の審査を通過するためには、事業の実体性と代表者の素性を客観的に証明する資料を過不足なく揃えなければなりません。
| 審査項目 | 確認されるポイント | 提出・準備すべき書類・環境 |
|---|---|---|
| 事業の実体性 | 具体的にどのような事業を行い、どこから収益を得るのか | 詳細な事業計画書、会社案内(パンフレット)、商品サンプル、取引先との契約書・発注書・請求書 |
| 代表者の本人確認・経歴 | 代表者の経歴が事業内容と整合しているか、在留資格に問題はないか | 在留カード(表裏)、住民票、代表者の職務経歴書、中国での関連事業の経歴証明書 |
| 拠点の稼働状況 | 事業活動を行う実体のあるオフィスが存在するか | オフィスの賃貸借契約書(事業用)、オフィスの外観・内観・看板の写真、固定電話番号の開通証明 |
| 資本金の出所 | 資本金が正当な資金源から拠出されたものか | 送金元の中国側銀行口座の取引明細、送金証明書、資金形成の根拠資料 |
審査対策として、事業内容や取引先候補を明記した詳細な事業計画書を作成し、独自ドメインの公式ホームページや企業用の固定電話回線をあらかじめ整備しておくことが有効です。
また、大手都市銀行(メガバンク)は外国人新設法人の初回審査のハードルが高いため、まずは比較的実体把握を柔軟に行う地域の信用金庫・信用組合や、ゆうちょ銀行、ネット銀行(GMOあおぞらネット銀行や住信SBIネット銀行など)へ並行して申し込む進め方が実務上推奨されます。
4.3 バーチャルオフィスや自宅兼事務所のリスク
会社設立の初期費用を抑える目的で、バーチャルオフィスや自宅兼事務所を本店所在地として登記するケースが見られます。
しかし、外国人が経営管理ビザを取得・維持する場合、これらの事業所形態には重大な法的リスクが存在します。
出入国在留管理庁のガイドラインにおいて、経営管理ビザに係る事業所要件は「経済活動が単一の経営主体のもとにおいて一定の場所(一区画)を占めて行われていること」「設備を有して継続的に事業が運営されること」と規定されています。
そのため、住所のみを貸し出すバーチャルオフィスや私書箱では事業所要件を満たせず、経営管理ビザの申請は原則として不許可となります。
また、自宅兼事務所についても厳格な審査基準が設けられています。自宅兼事務所が認められるためには、以下の条件をすべて立証しなければなりません。
第一に、物件の賃貸人(オーナー)および管理会社から「事業用としての使用」および「法人名義の看板・表札の設置」に関する書面での承諾を得ていることです。
住居専用契約の物件で無断登記している場合はビザ審査で不適合となります。
第二に、居住スペースと業務スペースが明確に区分されていることです。
具体的には、独立した専用の事務室が確保されており、住居部分を通らずに業務スペースへ出入りできる動線や間取りであること、パソコン・電話・什器などの事務設備が整っていることが間取り図や写真によって厳密に審査されます。
さらに、バーチャルオフィスや居住用マンションの一室を本店登記地としている法人は、金融機関の法人口座開設審査においても「実体不明の休眠会社・不正口座」と判断されやすく、口座開設を拒絶される直接的な要因となります。
事業を円滑に立ち上げるためには、初期段階から事業用途で契約可能な独立した個室オフィスを確保することが不可欠です。
5. 中国人が日本で設立する法人形態の選び方

中国人が日本でビジネスを展開する際、設立する法人形態は主に「株式会社」と「合同会社(日本版LLC)」の2つの選択肢があります。
出入国在留管理庁が審査する経営管理ビザの取得要件において、株式会社と合同会社の間に法的な有利・不利の差はありません。
どちらの形態を選んでも、資本金要件や事業所の確保といった基準を満たしていればビザの申請および取得は可能です。
法人形態を選択する際は、ビザ審査への影響ではなく、日本国内での事業内容、取引先の属性(一般消費者向けか、大手日本企業向けか)、初期費用、そして将来的な資金調達や事業拡大の計画を基準に判断する必要があります。
| 比較項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 設立時の登録免許税 | 最低15万円(資本金の0.7%) | 最低6万円(資本金の0.7%) |
| 定款認証手数料 | 約3万円〜5万円(公証役場) | 不要(0円) |
| 日本国内での社会的信用度 | 非常に高い(大手企業との取引や採用に有利) | 一般的(BtoCやWeb事業では問題になりにくい) |
| 役員の任期と重任登記 | 原則2年(非公開会社は最長10年まで伸長可能・更新登記が必要) | 任期なし(更新登記の費用が不要) |
| 決算公告の義務 | あり(官報掲載等で毎年費用が発生) | なし |
| 出資と経営の関係 | 所有と経営が分離(外部からの出資を受けやすい) | 所有と経営が一致(原則として出資者が業務執行者) |
| 経営管理ビザの申請 | 要件を満たせば取得可能 | 要件を満たせば取得可能 |
5.1 株式会社を設立するメリットとデメリット
株式会社は、日本国内で最も広く認知されている伝統的な法人形態です。
日本企業との間でBtoBビジネスを展開する場合や、将来的な規模拡大を目指す場合に多くの利点があります。
最大のメリットは、日本社会における圧倒的な信用力と認知度の高さにより、取引先の開拓や優秀な人材採用を円滑に進めやすい点です。
保守的な大手日本企業の中には、取引口座の開設基準として株式会社であることを求めるケースが存在します。
また、出資と経営が法的に分離されているため、中国本土の投資家やベンチャーキャピタルから出資を募って事業を拡大したり、ストックオプションを活用して従業員を採用したりする設計が容易です。
一方でデメリットとして、設立コストと維持コストの高さが挙げられます。
公証役場での定款認証費用や法務局への登録免許税などで設立時に約20万円〜25万円の法定費用がかかります。
さらに、定款で定めた役員の任期ごとに重任登記の費用が発生するほか、毎年の決算公告義務に伴う官報掲載費用(年約7万円台)などのランニングコストが生じます。
5.2 合同会社を設立するメリットとデメリット
合同会社は、2006年の会社法改正によって新設された法人形態であり、米国のLLC(Limited Liability Company)をモデルにしています。
AppleやAmazon、Googleの日本法人など外資系大手企業も採用している形態ですが、中小規模の起業においても費用対効果の高さから選ばれています。
最大のメリットは、設立費用を抑えられ、役員の任期更新や決算公告にかかる維持コストと事務負担を大幅に削減できる点です。
公証役場での定款認証が不要で、登録免許税も最低6万円で済むため、設立時の法定費用を約6万円〜10万円程度に抑えられます。
また、利益の配分や意思決定のルールを出資比率に関わらず定款で自由に設定できるため、少人数のパートナーで柔軟な経営を行う用途に適しています。
越境EC事業、個人向けサービス、貿易代行、不動産管理など、法人名義の対外的な知名度が直接の受注に直結しない業種では非常に合理的な選択肢となります。
デメリットとしては、株式会社と比較して日本国内での認知度がまだ低く、業種によっては新規取引先の審査で説明を求められる場面がある点です。
また、出資者全員が原則として業務執行権を持つため、中国本土の共同出資者との間で意見の対立が生じた場合に経営の意思決定が滞るリスクがあります。
将来的に外部から広く出資を募ってIPO(新規上場)を目指す場合などは、途中で株式会社へ組織変更する手続きが必要になります。
6. まとめ
中国人が日本で会社を設立するには、500万円以上の資本金用意や独立した事業所オフィスの確保など、経営・管理ビザの基準を満たす必要があります。
中国本土在住か日本在住かによって、出資金の払込方法や公証書の準備手順が異なるため、事前の確認が不可欠です。
また、事業規模に合わせて株式会社か合同会社を選択し、厳格化している法人口座の開設審査にも備えなければなりません。
各要件と手続きの流れを把握し、確実な準備を進めることが日本での事業開始への第一歩となります。

